About Unani Medicine

ユナニー医学とは

 世界各国の諸民族が伝統的に用いている薬物を民族薬物または伝統薬物と称する。これらは各民族が生み出した文化遺産の一つであり、その民族に役立つのみならず、広く現代医療に貢献できる可能性を含んでいる。

 イスラム文化圏で行われている伝統医学は、主にユナニー医学(ギリシア・アラブ医学)である。ユナニーとは「ギリシアの(Ionian)」という意味のアラビア語に由来し、その起源はギリシア医学(ヒポクラテス、テオフラテス、ディオスコリデス、ガレヌスなどが有名)にまで遡ることができる。ギリシア医学はアラビアに伝わった後、アラビア人の支持者によって大きく発展した。支持者の中でもアル・ラージ(Rhazes, 864-930年)、イブン・シーナ(Avicenna, 980-1307年)、イブン・アル・バイタール(Ibn Al-Baitar, -1248年)などが特に有名である。アラビア人は伝統医薬を守り、薬物に関する教育及び実践に励み、数百年にわたってこの医学体系は中東、東南及び中央アジアで繁栄した。現在、ユナニー医学はパキスタンやインドにおいて広く行われている。
この医学の基本はヒポクラテスのいう四体液理論である。人間の身体内に四つの体液、すなわち血液、粘液、黄胆汁、黒胆汁が存在することを前提にする。身体は次のものから作られているとみなされる。


@ 要素(元素)(Arkan):身体の基本的な構成要素を含む。自然界に存在するものは空・火・土・水の四要素から構成され 、ある法則に則って運用されている。
A 気質 (Mizaj):身体の物理化学的な面を含む。自然界に存在するあらゆるものが気質を持つ。
B 構成的要素 (Akhlat):身体の体液を含む。
C 完全に発育し成熟した器官 (A’da):身体の解剖学を含む。
D 活力または生命力 (Ruh):活力、生命力。
E 体力 (Quwa):エネルギー。
F 肉体的な機能 (Af’al):生化学的な過程を含む身体の生理学を包含する。


 これらの内、気質はユナニー医学で重要な位置を占め、病理、診断、治療の基礎になっている。各々の体液の優位性に応じて、患者の気質は多血質、粘液質、胆汁質、憂鬱質と表現される。現代的にいえば、各個人の気質によって異なる精神・神経・内分泌システムをもつことに等しい。気質に変化が生じると、個人の健康状態にも変化が興る。病気とは体液の不均衡状態またはその調和の乱れた状態であり、病的状態を除去するために身体のある器官が機能不全に陥ることをいう。
四つの体液にはそれぞれ気質がある。体液の物理的な気質としては、血液は熱くて湿っており、粘液は冷たくて湿っている。黄胆汁は熱くて乾いており、黒胆汁は冷たくて乾いている。薬にも気質があり、これらの気質には程度の違いがある。ある薬の気質は、その薬が身体の気質に及ぼす作用によって決められる。すなわち、「熱い」とされる薬は身体に入って機能(活力)と相互作用を起こし、熱い気質を作り出すのである。したがって、薬は原則として、身体または特定の組織や器官の気質が異常をきたし病気になったときに、それを治し補正するために用いられる。

  ユナニー医学で用いられる生薬の80%は植物性であり、他に動物性及び鉱物性生薬がある。有名なイブン・アル・バイタールの薬物書には2324項目の生薬が記載される。生薬は単体で用いられるもの(Mufradat単体形)と数種を混合し、複合体として処方されるもの(Murakkabat複合体形)がある。生薬製剤には次のような種類が挙げられる:Aqras(錠剤、トローチ剤)、Dawaul-Misk(麝香入り製剤)、Hubb(丸剤)、Itrifal(ミロバラン練り薬)、Jawarish(消化剤、健胃剤)、Khamira(バラやスミレの保存剤)、Kuhl(点眼剤)、Kushta(カルシウムコーティング剤)、Labub(練り薬の一種)、Lauq(口中で徐々に溶解させる練り薬)、Majun(蜂蜜入り練り薬)、Marham(軟膏剤)、Mufarreh(興奮剤)、Murabay(保存剤)、Noshadru(解毒剤)、Sherbat(水薬)、Shiyaf(座薬)、Sununat(歯磨き)、など。

  ユナニー薬物(生薬)の性質は、患者に投与された時の反応から(ユナニー医師が判断)9種に分けられる。すなわち、緩和性、熱性、寒性、湿性、乾性、これらの増強型及び混合型である強熱性、強寒性、熱乾性、寒乾性である。緩和性の薬物は服用しても身体の状況や性質に変化をもたらさない。一方、身体に明らかな変化をもたらす薬物による作用は、熱、寒、湿、乾、強熱、強寒、熱乾、寒乾性のいずれかに相当する。緩和性を除いた8種類の性質はさらに4度に分けられる。例えば、ユナニー薬物が体内の機能を整えるための変化をもたらし、その変化が感じられない程度であれば第1度に分類される。ユナニ薬物による変化が身体で感じられ、無害であれば第2度とされる。その作用が有害でありながら作用を示し、致死的ではない場合を第3度という。数種のユナニー薬物は有毒であり、薬の悪影響が見られる。これらは第4度に値する。具体例は以下のとおり

熱性第1度:Asparagus racemosus, Onosma bracteatum, Matricaria chammomilla, Aloe barbadensis
熱性第2度:Blepharis edulis, Apium graveolens, Crocus sativus, Swertia chirata, Trigonella foenum-graceum
熱性第3度:Delphinium denudatum, Valeriana hardwickii, Cuscuta reflexa, Ocimum sanctum
熱性第4度:Alium cepa, Alium sativum, Vitis vinifera, Ferula asssafoetida
寒性第1度:Viola odorata, Acacia nilotica, Tinospora malbarica, Cichorium intybus
寒性第2度:Olea europea, Quercus infectoria, Plantago major, Lactuca scariola
寒性第3度:Portulaca oleracea, Catharanthus roseus, Tamarix gallica, Atropa acuminata
寒性第4度:Papaver somniferum, Datura stramonium, Trachyspermum ammi, Physalis alkekengi,

Verbascum thapsus
乾性第1度:Glycyrrhiza glabra, Polygonum vulgare, Sphaeranthus indicus, Foeniculum vulgare
乾性第2度:Valeriana jaeschke, Thymus serpylum, Colchicum autumnale, Raphanus sativus,

Myristica fragrans, Zingiber officinale
乾性第3度:Daemomorhops draco, Doronicum hookeri, Nigella sativa, Hyoscyamus niger, Hyssops officinalis, Caesalpinia bonduc, Syzygium jambos
乾性第4度:Datura fastuosa, Euphorbia resinifera, Alium ascalonium, Moringa pterygospernia
湿性第1度:Ocimum basilicum, Prunus cerasus, Alhagi maurorum, Althea officinalis, Lallemantia royleana
湿性第2度:Amaranthus caudatus, Asparagus adscendens, Nymphea lotus, Plantago ovata
湿性第3度:Citrus aurantium, Citrus limentta
緩和性:Punica granatum, Adiantum capillus-veneris, Cordia latifolia, Zyzyphus vulgaris

参考文献