タンパク質の立体構造を解析するまで

研究のイメージを掴んで頂くために、簡単な実験の流れを掲載しました。キーワードも記載したので、詳しく知りたい方はこれらの単語を検索してみてください。

  1. 大腸菌によるタンパク質の発現
  2. タンパク質の精製
  3. タンパク質の結晶化
  4. X線結晶構造解析

大腸菌によるタンパク質の発現

外来遺伝子由来のタンパク質は大腸菌に発現させます。
私達の研究室は主に植物由来の酵素を大腸菌に発現させています。

  1. 外来遺伝子は制限酵素を利用してplasmidに導入します。
    この時、plasmidは薬剤耐性遺伝子を持っているものを使用します。
    plasmidの性質などは、ノバジェンpETシステムセレクションガイドのPDFに詳細が記載されています。
  2. 大腸菌にplasmidを取り込ませます(形質転換)。その後、plasmidの薬剤耐性を利用して、この抗生物質を含む培地で培養すると、形質転換された大腸菌のみが増殖し、目的遺伝子を発現可能な大腸菌のみを選択できます。
    大腸菌株自身が別のplasmid(薬剤耐性遺伝子含む)を既に獲得している場合もあるので、使用する大腸菌の性質も調べます(上記のPDFにその一部が記載されています)。
  3. 大腸菌をリットルスケールで培養して培地が濁るくらいに増やします。
  4. 発現誘導試薬を加えると、plasmid中の目的タンパク質が発現するようになります。
    発現誘導後は数時間から1日程度培養して目的タンパク質を大量に発現させます。
  5. 遠心操作で大腸菌のみを回収します。

キーワード:遺伝子組み換え、plasmid、制限酵素、形質転換、発現誘導

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タンパク質の精製

  1. 大腸菌をBufferで懸濁し、超音波を使って大腸菌を破砕します。
    目的タンパク質は破砕後にこのBufferに溶けた状態で回収します。
  2. 目的タンパク質は利用したplasmidの種類によっては精製用のタグがタンパク質のN末端側またはC末端側に付加され融合タンパク質として発現されています。
    精製最初のステップはこのタグを利用して破砕液から目的タンパク質を粗精製します。
    良く利用するのはHisタグやGSTタグです。
  3. タグを利用した精製(アフィニティークロマトグラフィー)で目的タンパク質を含む溶出物は、結晶化するにはまだ純度が低いので、その後、分子の大きさを利用した分画法(ゲルろ過クロマトグラフィー)や、タンパク質表面の電気的性質を利用した分画法(イオン交換クロマトグラフィー)のどちらか、または両方を駆使して高純度かつ高濃度に精製します。
    簡単な精製の流れはGEヘルスケアバイオサイエンスのサイトにも紹介されています。

キーワード:アフィニティータグ、クロマトグラフィー、イオン交換、ゲルろ過

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タンパク質の結晶化

タンパク質の結晶化は、タンパク質の純度、濃度、Bufferの種類とpH、イオン強度、温度、沈殿剤(塩、有機溶媒、水溶性高分子)、添加物など多くのパラメータに影響されます。

  1. Bufferの種類とpH、イオン強度、温度、沈殿剤(塩、有機溶媒、水溶性高分子)、添加物の条件を検討します。
    実際にはこれらの条件がふられたスクリーニングキットを複数利用して初期結晶を得ます。
  2. 得られた1つまたは複数の結晶からさらに良い結晶を得るために、Bufferの種類とpH、イオン強度、沈殿剤を自分で調製して結晶の出た条件を少しだけ変えた結晶化条件を検討し、より大きくより美しい結晶を目指します。
    ただし、大きくて美しい結晶から必ずしも良いデータが得られるわけではありませんが…

タンパク質の結晶です。偏光板を通しているため色がついていますが、本来は無色です。

キーワード:タンパク質の結晶化、Nextal、Hampton

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X線結晶構造解析

結晶化したタンパク質はX線に照射してその回折データをコンピュータ解析することで立体構造を得ます。
なぜ顕微鏡では見れないか、なぜX線を照射すると像が得られるかは入門的なX線の教科書の最初の方のページにわかりやすく記述されていると思います。

  1. 結晶は放射光施設(Photon Factory、SPring-8)に持って行き、X線の回折データを収集します。
    (1結晶について1°ずつ360枚測定することも)
  2. 回折データから空間群、結晶格子と回折斑点の強度を計算します。
  3. 回折斑点の座標と強度を使って初期の電子密度と立体構造を得ます。
    私達のように基質との複合体構造を決定する場合は、タンパク質だけのapo構造の情報を利用して迅速に構造解析可能になります(分子置換法)。
  4. 精密化作業を進めることで立体構造を決定します。
  5. 最終的に、決定した構造はProtein Data Bankに掲載します。

タンパク質結晶にX線を照射した時の回折斑点です。

タンパク質中(灰色)に結合している化合物(緑、赤、青でC、O、Nを示している)とその電子密度(紫)。

キーワード:空間群、結晶格子、単結晶X線回折、Photon Factory、SPring-8、Protein Data Bank

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