Museum of Materia Medica, 民族薬物資料館

生薬とは

生薬と民族薬物

  薬用となる植物、動物、鉱物の全体あるいはその一部を生のまま、または簡単な加工を施して、疾病の治療に用いた物質。天然由来の薬物で、広くは抽出エキスや医薬品原料となる天然物をも含む。日本薬局方・生薬総則の規定では、「生薬は動植物の薬用とする部分、細胞内容物,分泌物,抽出物又は鉱物などである」とされる。
 民族薬物とは世界の諸民族が、自分たちの伝統医学(独自の医学体系をもつ)または伝承医学(口伝による)の基に使用している薬物という意味で、民族薬物と称する。薬物自体は生薬である。

漢薬

中国医学で用いられる生薬を 日本では「漢薬」と呼んでいます。
日本漢方でも漢薬を多用しますが、 日本で開発された「和薬」を使う こともあります。
人参:古来最も珍重された漢薬で、食欲を増して元気を回復させます。中国医学では気を補う薬とされています。
ウコギ科のオタネニンジンの根を乾燥したもので、ほとんどが栽培品です。 朝鮮半島の人参が有名ですが、日本でも江戸時代に栽培化に成功し、現在長野県、福島県および島根県で栽培されています。

和薬

私たち日本人が開発し、使用してきた生薬が「和薬」です。和薬には民間薬として使われているものと漢方薬の中に配合されるものがあります。桜の樹皮、桜皮は日本の民間薬として開発されたもので、江戸時代の民間療法の書物(救民単方,諸国古伝秘方,経験四方,奇方録,妙薬博物筌など)に多く収載されます。華岡青洲の『瘍家方筌』の「十味敗毒湯」に、樸樕(クヌギ,ナラ,カシワなどQuercus属の樹皮)の代用として桜皮を用います。
センブリ:室町時代末期に漢薬「胡黄連」の代用として開発された民間薬です。リンドウ科に属し、植物体全体を健胃薬にします。
胡黄連はヒマラヤ原産のゴマノハグサ科植物の根茎で、インドでは「KATUKI」と称し、急性肝炎や気管支炎に用います。

漢方薬

「漢方薬」はある法則の基に漢薬(和薬を含む)が集められたもので、処方になっています。これらの処方は中国歴代の医方書に収載されています。
葛根湯:後漢の時代に著された『傷寒論』に収載された処方で、感冒に罹り始めの諸症状、頭痛、発熱、肩こり、筋肉痛など(葛根湯証)に応用します。
次の7種類の生薬から構成されています:葛根 8(4)g、麻黄 4(3)g、大棗 4(3)g、桂枝 3(2)g、芍薬 3(2)g、甘草 2g、生姜(乾) 1g。

アーユルヴェーダ薬物

インドの伝統医学をアーユルヴェーダと呼んでいます。Ayus アーユスは「生命」、Veda ヴェーダは「知識」の意です。この伝統医学で使われている薬がアーユルヴェーダ薬物です。
HARITAKI (ハリタキ):インドから中国へ、また日本へ渡来した生薬で漢字の名前を「訶子」、「訶梨勒」といいます。仏教経典の中にもこの名前が見られます。 シクンシ科のミロバランの果実に由来し、インドでは強壮薬として、中国では収斂、止瀉、鎮咳薬として用います。


以上、小松 かつ子記