Museum of Materia Medica, 民族薬物資料館

データベース

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各データベースの解説

民族薬物DB

 富山大学和漢医薬学総合研究所民族薬物資料館には、世界各国の伝統医学で用いられる生薬の標本が約30,000点保存・展示されている。これらは日本及び海外で行った学術調査の蒐集品で、一部は研究に供して有益な知見を得ている。蒐集地域の広さや異物同名品(同一生薬名で基原の異なるもの)の多さは、蒐集の歴史とともに世界に類がなく、研究・教育用資料として高い評価を受けている。そこで、これらの生薬標本の情報に、各伝統医学における使用法などの情報、さらには科学的研究結果の学術情報を付けて国内外の研究者に提供し、各種医薬学研究を推進させること、及び日本国内で使用されている漢方薬や健康食品の原料生薬について有用性や安全性に関する正確な情報を提供し、適正使用を計ることを目的にして、民族薬物データベース(DB)の構築を開始した。
 民族薬物資料館には、世界の三大伝統医学といわれる中国医学、インド医学(アーユルヴェーダ)及びユナニー医学(グレコ・アラブ医学)、さらにこれらが周辺諸国に伝播し派生した医学である漢方医学、チベット医学、タイ古医学、ウイグル医学などの伝統医学で用いられている伝統薬物(生薬)が収められていることから、データベースもそれぞれの伝統医学毎に開発することとした。始めに日本の漢方医学や中国医学で用いられる和漢薬のデータベースの開発と生薬標本情報・学術情報の構築に着手し、その後アーユルヴェーダ生薬、ユナニー生薬、チベット生薬、タイ生薬、インドネシア生薬の順序でデータベースの開発を進めた。和漢薬DBの日本語版の公開は、着手して3年後の平成12年であった。その後の和漢薬DBの日本語版/英語版のWeb用ソフトの開発では、アーユルヴェーダ生薬DBにも対応できるように設計した。この方法はすべての伝統生薬DBに踏襲されており、すなわち、同一条件(基原植物の学名など)で検索すると、すべての伝統生薬DBでこの条件を満たす生薬が検索できるようになっている。これにより、生薬の国際的な標準化に役立つことが期待される。
 民族薬物DBの作成にあたっては、薬効解析センター(現民族薬物研究センター)を中心とした作成委員会を設立した。民族薬物資料館に保存される和漢薬以外の伝統生薬の同定と学術情報の収集、整理には、当該伝統医学が盛んな国の専門の研究者を研究所の客員教授または助教授として招聘して、ご協力いただいた。これまでに延べ14名の外国人研究者の協力があり、また日本学術振興会科学研究費補助金(研究成果公開促進費)や文部科学省21世紀COEプログラム(富山大学)による助成をいただいて、現在まで地道に構築を続けている。

小松 かつ子記

証類本草DB

 民族薬物DBのうち、漢方医学や中国医学で用いられる生薬の薬効や使用方法を調べるためには和漢薬DBが適している。このデータベースには、生薬の古来の薬効、古来の原植物、薬効や原植物の歴史的変遷などが参照できるように、中国の最も権威がある本草書である『証類本草(経史証類大観本草)』の原文を画像データとして収載している。しかし、原文の内容を理解することは専門家であっても難しかった。そこで、『経史証類大観本草(柯氏本)』を我が国として初めて翻訳し、データベース化する事業を開始した。
 『証類本草』は、中国で1世紀頃に創刊された本草書『神農本草経』を基本とし、その後収録文献や品目(生薬)を追加しながら12世紀頃までに31巻発刊された最も権威がある薬物書である。収載品目は約1,700種類で、薬用植物、薬用動物、薬用鉱物、さらには食用とされる果実類、米穀類、野菜類、獣禽類などの効能が、形態や産地などとともに時代毎に収載される(各時代の本草書の内容が追加記載される)。医薬学及び植物学方面の内容の正確さや情報量の豊富さから中国はもとより日本の生薬学者等から高い評価を受けているにもかかわらず、古く難解な漢文で記載されているため、これまで国訳本は一切出版されてこなかった。そこで、原文の翻訳を専門家(NPO法人 文字鏡ネット)に委託し、その後、翻訳文を和漢医薬学総合研究所の出身者で構成するデータベース作成委員会で吟味し、校正したのち、翻訳文を原文とともにデータベースとして構築することにした。さらに、同時代に著され、薬効の記載に優れている本草書『本草衍義』の記文についても同様に翻訳、校正してデータベースに構築した。
 この証類本草DBを、先の民族薬物DBにリンクさせ、総合的な生薬・薬草データベースとして完成させ、広く研究者や一般市民へ公開することにより和漢医薬学の発展に寄与することを目的とした。『証類本草』には食品に分類される品目も収載されていることから、これまでの科学的観念による栄養学的解釈とは別に、薬食同源の観点から薬効ならぬ「食効」に関する情報が提供できるものと考えている。

小松 かつ子記