研究成果

国境なき科学:日本とドイツの膵臓がんへの盟約

■ポイント

富山大学(日本)とヴュルツブルク大学(ドイツ)の国際共同研究により、がん研究における画期的な進展が達成されました。この共同研究チームは、新規抗がん化合物「トヤブルギン(Toyaburgine)」を開発し、ACS Chemical Biology(2025年4月18日号)の表紙を飾りました。本成果は、科学的革新とグローバルな学術連携によって成し得たものです。

■概要

トヤブルギンは、天然由来のナフチルイソキノリンアルカロイドに、構造的に着想を得た新しいタイプの抗がん化合物です。化合物名「トヤブルギン」は、富山(TOYA)とヴュルツブルク(BURG)に由来し、両大学の深い協力関係を象徴しています。また、この名前は、研究の地理的起源だけでなく、両大学間の長年にわたる学術的絆を反映しています。

研究は、和漢医薬学総合研究所のSuresh Awale准教授が中心となり、ヴュルツブルク大学のGerhard Bringmann教授と密接に協力し、富山大学附属病院の化学者、薬理学者、臨床専門家からなる多分野チームによって支えられました。この研究は、5年生存率が10%未満とされ、治療困難で致死率の高い膵臓がんに対する新たな治療法の緊急ニーズに応えるものです。

■研究の内容

トヤブルギンは、マウスモデルを用いた膵臓がん治療において優れた効果を発揮します。メカニズム研究により、トヤブルギンが栄養欠乏条件下でのがん細胞生存に重要なPI3K/Akt/mTOR経路を阻害し、腫瘍微小環境におけるがん細胞の増殖を効果的に抑制することが明らかになりました。in vitro試験では、MIA PaCa-2細胞を用いたスフェロイド形成試験において、腫瘍微小環境を模倣した条件下で強力な増殖抑制効果を示し、リアルタイムで薬剤応答動態を明らかにしました。また、細胞移動とコロニー形成の抑制により、顕著な転移抑制効果も確認されました。in vivo試験では、皮下モデルおよび臨床に近い同所性モデルにおいて、トヤブルギンが単独またはジェムシタビンとの併用で腫瘍体積と重量を有意に減少させました。単独投与でもジェムシタビン単独よりも高い効果を示し、併用時にはマウスモデルでほぼ完全な腫瘍縮小を達成しました。特に、同所性モデルでは、進行性膵臓がんに伴う重篤な合併症であるがん悪液質を顕著に軽減し、患者の生活の質向上に寄与する可能性が示されました。

■今後の展開

トヤブルギンは、膵臓がん治療に革新をもたらす可能性を秘めています。本研究を基盤に、富山大学とヴュルツブルク大学は、国際的な製薬・バイオ企業との連携に最大限の努力を注ぎ、臨床試験の早期実現を目指します。トヤブルギンの独自の作用機序は、既存治療との併用による個別化医療を加速し、がん治療の新たな選択肢を提供します。この国際共同プロジェクトは、患者の生存率向上とQOL改善に貢献し、がん治療の未来を切り拓くモデルとなることを目指します。

図1トヤブルギン:皮下モデルと同所モデルで証明された抗腫瘍効果

図2トヤブルギンの驚くべき力: 腫瘍微小環境を標的にする画期的な発見が『ACSケミカルバイオロジー』表紙に登場!

この研究が「ACS Chemical Biology」の表紙に掲載されたことは、発見の科学的意義を認められた重要な成果であり、世界の喫緊の健康課題に取り組むグローバルな協力の重要性を示しています。

【論文詳細】
論文名:Toyaburgine, a Synthetic N-Biphenyl-Dihydroisoquinoline Inspired by Related N,C-Coupled Naphthylisoquinoline Alkaloids, with High In Vivo Efficacy in Preclinical Pancreatic Cancer Models

掲載誌: ACS Chemical Biology

発行日: 2025年4月18日

DOI: 10.1021/acschembio.4c00870

著者: Suresh Awale*,1, Juthamart Maneenet1, Nguyen Duy Phan1,2, Hung Hong Nguyen1,2, Tsutomu Fujii2, Heiko Ihmels3, Denisa Soost31, Nasir Tajuddeen3, Doris Feineis4, Gerhard Bringmann4,*

所属:

  1. Institute of Natural Medicine, University of Toyama, Japan
  2. Graduate School of Medicine and Pharmaceutical Sciences, University of Toyama, Japan
  3. Department of Chemistry–Biology and Center of Micro- and Nanochemistry and (Bio)Technology (Cμ), University of Siegen, Germany
  4. Institute of Organic Chemistry, University of Würzburg, Germany

 

研究資金: 本研究は、日本学術振興会(JSPS 科研費 23K26797)およびドイツ研究振興協会(DFG)の助成を受けました。

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2025.05.08 研究成果