教員紹介

東田 道久 准教授

TOHDA Michihisa

所属研究開発部門・病態制御分野・神経機能学領域(和漢薬知統合学)

専門分野和漢薬理学

学位薬学博士

略歴 富山大学 研究者総覧

出身大学・大学院

1984年3月 富山医科薬科大学薬学部卒業
1986年3月 富山医科薬科大学薬学研究科博士前期課程修了
1988年6月 北海道大学薬学研究科博士課程中途退学

職務経歴

1988年6月 北海道大学薬学部教務職員
1993年10月 富山医科薬科大学和漢薬研究所助手
2005年2月 富山医科薬科大学和漢薬研究所助教授・准教授 (→ 現職 (名称変更))

研究テーマ

部門

分野

領域

プロジェクト

研究の概要

和漢薬は難しくない! 和漢薬は面白い! 和漢薬は新しい!

現在の主な研究テーマ
1. 和漢薬理論に対するエビデンスの提供とそれを基盤にした新たな研究戦略の提供
2. 生体反応に寄り添った和漢薬独自の作用の解明とそれに基づく計量薬理学を打破する超低濃度作用薬の開発
3. 和漢薬理論に立脚したうつ病の分類、発症機序の解明と、新規抗うつ薬の開発
4.「抗がん薬副作用による心不全」および「致死性再発心筋梗塞」を予防する新規和漢薬処方の開発

和漢薬は、その服用のタイミングが、純薬とは異なり食間である。すなわち異物としての薬ではなくおやつの様な食物としての概念で考える必要がある。また病気に対してではなくヒトに対して処方されるという決定的な個性もある。従って既成のクスリ研究とは異なる固有の体系基盤に立脚した研究を行なうことが必要であるかも知れない。はかるもかな、和漢薬に関する独自の学問基盤は、薬学的、医学的両視点において古典的に確立している。薬性五性、対薬、修治、気血水、八綱理論などであるが、それらの理論を現代の研究に生かすことにより、これまでには考えられなかった革新的視点と治療薬が生まれる可能性が高い。幸いにして本質的な根幹においては、和漢薬諸理論と現代医学薬学の考え方(薬理学や生理学)に大きな差はなく、少しの理解が革新的成果につながると考えられる。

和漢薬の個性としては以下の点があげられる。
1) 微量な成分が主作用を担っており (香りも有効成分?)、生体作用に寄り添って作働性に作用する。多くの純薬は抑制性、阻害性であり、従って作用させるために一定量以上が必要なため副作用が生じやすいが、和漢薬は微量でも生体反応が出るため、正しく用いた和漢薬には副作用は生じない。
2) 全身性に作用する。脳の疾患であっても、消化器系などからの神経機能などを介して二次的に治療効果が示される可能性が高い。鍼灸の経絡の概念も参考になるであろう。もともと脳は、外から刺激があってはじめて機能する臓器であり、自ら音を発することのない指揮者の様な存在である。
3) 和漢薬作用の基本は2つの生薬の組み合わせである「対薬」が最小単位となる。作働的機能を持つものと抑制的機能を持つものとの組み合わせや、相互強調の組み合わせなどが見られるが、これらは和漢薬に限ったことではなく、生体作用機序のいろいろな場面で見られる (例:ノルアドレナリン受容体のサブタイプや、GABAやNMDAなどのチャネル形成型受容体)。対薬は組み合わせで作用が大きく変化する。対薬を基盤として処方が形成されると考えられる。
4) ヒトに対する安全性が確立されているため、一定の条件下でヒトを使った基礎研究 (臨床研究ではない) を、動物実験等に先行させて行うことが可能かもしれない。

これらの点に思いを置きながら、以下に示す解析手法を用いた研究を行なっている。
1) 薬の効果をその理論基盤に基づいて研究するためには、自ら生薬の組み合わせを変えて評価するなどの必要性がある。また生薬自体のロット間の差や、時間経過による成分変化も考慮する必要がある。品質管理の視点ではなく、応答性変化に対応する化学的視点を確実に保持するために、3D-HPLC の自研究室内に設置し、研究に用いたサンプルのまさにそのロットの実験した時のプロファイルの取得を行なっている。たとえ分解産物であっても、それが活性に相関することが比較によりわかれば、その後の研究展開が開ける。
2) 培養細胞を生薬/処方エキスを処理した際の遺伝子発現変化等に関して、上記成分分析とともに解析し、またそのRNA/cDNAを蓄積し、研究に用いている。各種データーの蓄積に伴って、そこから新たな視点が生まれる。脳に作用する薬物が脳内に移行しなければ作用がないとする考え方は間違いである。神経系あるいはホルモン系を介して作用することはありえる話であり、実際副腎皮質ホルモンの教科書的な例もある。細胞に直接生薬エキス等を添加する実験はしばしば拒絶されることがあるが、生薬成分等の一次作用点での薬理作用を検討することには最適であり、また細胞内での作用機序も知ることができる点で、その部分での対薬効果などの検討に適する。また、各種センサーや遺伝子エレクトロポレーション法などにより導入した細胞において、薬物効果を検知するタイムラプス蛍光顕微鏡を用いた実験も行なっている。
3) 生薬処置細胞や小動物の組織内での遺伝子発現変化について、リアルタイムPCR 装置によりRNA 発現変化を解析している。また、メチレーションアナライザーを用いたゲノムDNA上での変化や、セロトニン2C受容体(5HT2C)mRNA 上での editing 変化についても検討しており、特に後者に関しては、胎児期と神経ネットワーク形成期におけるediting の意義について新規のediting 部位の発見も含めて、詳細に検討を加えている。
4) 電気生理学的な応答は作働性の反応を見るには最も精緻である。アフリカツメガエルの卵母細胞に mRNA を注入して膜表面に受容体等を発現させて応答を見るシステムを用いて、生薬中のセロトニン作働性成分の単離に成功している。また、注入する mRNA にミューテーションを施すことで、蛋白のその部位の反応性への変化を検討することも可能であり、5HT2C mRNA editing の生理作用に関しての研究を行なっている。
5) ヒトのfunctional MRI (fMRI)により、補中益気湯の作用を検討して、その知見、ならびに和漢薬理論に基づく処方解析を小動物fMRIにより進めている。小動物での反応性を見ていくことで、漢方医学における証の解明や、生薬構成の違いによる反応性の差、さらには作働性の新薬開発にもつなげていけることを期待して進めている。小動物MRIは困難な点が多いが、それを解決できれば、比較的直接的にヒトの治療につながる研究が和漢薬を基盤にして推進できると考えている。
6) 小動物自律神経機能解析システム (心電図、脳波、血圧等) を導入し、それを用いた研究を開始した。上述の抹消作用が脳反応に及ぼす効果を解析することを目的として、胃内還流した際の自律神経系反応の変化を捉えることを目指している。補中益気湯は麻酔下の動物において経口投与直後に著しい呼吸抑制をもたらすことを見出しており、またMRIでも視床下部の強い応答性を観察している。その機序の詳細に関して、本システムを用いた検討を計画している。

研究への想い

大学における研究にとって最も大切な点は「好奇心」と「観察力」「持久力」。
なんだ? 面白い! もう一回
幼い子供達が有している純粋で飽くなき好奇心を大切に、まだまだ未開拓の「和漢薬の森」への冒険を続けて行きたいと思っています。幸いにして、近年の分析機器の発展はようやっとその森を開拓する道具を提供しはじめています。和漢薬こそが最先端の医療を提供できる最も精緻で最も進んだ体系を有しています。我々はまだそれを深く認識できてはいない。

研究には二つの道があると思っています。目標を定めてワンチームを形成し業績を積み重ねて行なう研究と、好奇心に端を発しオンリーワンの面白い研究を進めるうちに本人さえ予測できなかった高みに到達する研究。後者の典型的例としては、下村脩博士のオワンクラゲ緑色蛍光蛋白質GFPの発見などが挙げられます。後者の研究は大学に勤める者にしかできず、歩みの過程では孤独であっても成果が得られた場合は後塵が大挙して寄り集まってきます。多くの場合、森の中を彷徨い歩くうちに死の谷に到達してしまうのかも知れませんが、それを恐れることなく、好奇心と観察力、持久力を持ち続けて進んで行きたいと念じています。アカデミアの研究者にとって大切なことは「それでも地球は動いている」と言える深い洞察と自信であり、また「王様は裸だ」と言える子供のような純粋な気持ちを持ち続けることと思っています。

論文

Profiling 120 kinds of herbal extracts and their effects on morphological changes in cultured neuronal or glial cell lines followed by extracting RNA to make cDNA library: Consideration for use to studies based on the Wakanyaku theories
M. Tohda
Traditional Kampo Medicine. submitted
単著

The Wakan-yaku Universe: A useful authorized traditional concept for developing novel therapeutic categories and medicinal drugs.
M. Tohda, H. Watanabe.
Biol Pharm Bull. 41, 1627-1631. 2018年
総説共著

Serotonin 2C receptor as a superhero: diversities and talents in the RNA universe for editing, variant, small RNA and other expected functional RNAs.
M. Tohda
J Pharmacol Sci. 126, 321-328. 2014年
総説単著

Serotonin 2C receptor (5-HT2CR) mRNA editing-induced down-regulation of 5-HT2CR function in Xenopus oocytes: the significance of site C editing.
M. Tohda, P.T. Hang, N. Kobayashi, K. Matsumoto.
J Pharmacol Sci. 113, 362-367. 2010年
共著

BNIP-3: A novel candidate for an intrinsic depression-related factor found in NG108-15 cells treated with Hochu-ekki-to, a traditional oriental medicine, or typical antidepressants.
M. Tohda, H. Hayashi, M. Sukma, K. Tanaka.
Neurosci. Res. 62, 1-8. 2008年
共著

キーワード

和漢薬知統合学、補中益気湯、セロトニン 2C 受容体、BNIP-3、RNA editing、機能性精神疾患