研究成果

生薬の煎じ液中に含まれる耐熱性のRNA断片に免疫活性化効果があることを発見

概要

富山大学学術研究部薬学・和漢系/和漢医薬学総合研究所・未病分野の犬嶌 明子 博士研究員と小泉 桂一 教授および和漢医薬教育研修センターの柴原 直利 教授は、生薬の煎じ薬中に耐熱性のRNAを発見しました。さらに、このRNAに免疫活性化効果があることを明らかにしました。従来の生薬・漢方研究では想定していなかった「RNAが生薬・漢方薬の免疫活性化の有効成分」のひとつである可能性を見出したことから、本研究成果は漢方研究のブレークスルーとなるものです。本成果は、2021年12月2日に、Biomedicine & Pharmacotherapyにオンライン掲載されました。https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0753332221012439?via%3Dihub#fig0020

研究の背景

日本の伝統薬である漢方薬も含め、生薬は世界中の伝統薬として使用されています。また、いくつかの生薬には免疫活性化作用があることが報告されています。さらに、COVID-19の予防や治療のために伝統薬の効果を調べている研究も報告されています。しかし、生薬の免疫活性化の有効成分についてはよくわかっていません。従来、生薬の有効成分に関しては、生薬の二次代謝産物に注目した研究が行われているのが現状です。その結果、数多くの現代医薬品が生薬の有効成分を基に開発されています。一方で、二次代謝産物とは対照的に、生薬の一次代謝産物についての研究は、ほとんど行われていません。最近我々は、生薬である甘草の煎じ薬から糖類を主成分とするナノ粒子を発見し、その免疫細胞に対する生物学的効果を報告しました。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30338298/

そこで、本論文では、一次代謝産物である核酸のひとつ、RNAに注目して研究を行いました。

研究の内容・成果

一般的に、生薬の植物は収穫された後に乾燥され、さらに熱水で煮ることで煎じ薬が作製されます。このような過酷な製造工程を経た生薬の煎じ薬に、そもそもRNAが分解せずに存在しているのか?初めに著者らは、この疑問を解決しました。結果として、甘草の煎じ薬中には、25〜200塩基の耐熱性のRNAが存在している事が明らかとなりました。また、この耐熱性RNAの配列を次世代シーケンサーで解読した結果、約30%が甘草由来のRNAであり、その他は様々な微生物の遺伝子に一致する配列が含まれていることが明らかになりました。さらに、このRNAをマウスのマクロファージ細胞に作用させたところ、転写因子NF-κBの活性化および炎症性サイトカインの産生亢進が確認された結果から、免疫活性化が誘導されることが明らかとなりました。

 

 

 

 

今後の展開

今回の研究において、著者らは、生薬の煎じ薬には免疫活性化作用を有する耐熱性RNAが存在していること発見しました。免疫系は、外来性の異物である細菌やウィルスRNAをToll様受容体(TLR)やRIG-I様受容体(RLR)などのパターン認識受容体(PRR)によって検出し、炎症反応や抗ウイルス免疫反応を誘導することが明らかになっています。今後は、生薬の煎じ薬に含まれるRNAが作用するTLRを明らかにし、さらにはその配列を同定することで、生薬・漢方薬の免疫活性化機序の詳細を明らかにする予定です。

 

用語解説

一次代謝産物:糖質、脂質、タンパク質、核酸およびこれらを構成する成分であり、生物の種類を問わず生命を維持する上で不可欠な生体成分

二次代謝産物:一次代謝産物以外の成分であり、生物の種類によって化学構造と生物活性の多様性に富む。医薬品の成分として利用される。

次世代シーケンサー:核酸(DNAとRNA)の塩基配列情報を大量に解読可能な装置

マクロファージ細胞:体内に侵入した細菌などの異物を食べ、免疫活性化の起点となる細胞

転写因子NF-κB:炎症、細胞増殖などの調整を行う遺伝子の制御因子

炎症性サイトカイン:細胞から分泌される炎症を調節する低分子のタンパク質


2022.01.06 研究成果