研究成果

日常的な身体活動によって身体・脳の健康とウェルビーイング(幸福度)の向上につながることを高齢者で証明

本研究所・神経機能学領域の、稲田祐奈助教と東田千尋教授らは、ウェルビーイング※1、日々の身体活動、運動機能、認知機能の間の全体的な因果関係を明らかにしました。

フレイル※2予防には、体を動かすことが有効であると考えられていますが、体の活動が運動機能だけでなく認知機能や精神的健康に良い影響を与えることがいくつかの研究で明らかにされています。このことから、身体活動、運動機能、認知機能、精神的健康は、互いに関連していると予測されます。しかし、多くの研究は個々の関係性にしか着目しておらず、全体の因果関係は不明でした。本研究では、健康な高齢者の特徴を調べる研究を行い、日常的な身体活動が多いと、運動機能、認知機能の状態が良く、結果的にウェルビーイングが高いという一続きの関係性があることを初めて明らかにしました。

■ ポイント・概要

・健康な高齢者では、日常的な身体活動が多いと、運動機能、認知機能の状態が良く、結果的にウェルビーイングが高いという一続きの関連性があることが示された。

・日常的な身体活動を促進することで、運動機能の向上、認知機能の向上がもたらされ、最終的に良いウェルビーイングが得られる可能性が示唆された。

■研究の背景

フレイルは、移動障害、介護、死亡に関連する一般的な加齢に伴う疾患と位置付けられています。このフレイルを予防するには、身体を活動させることが有効であると考えられています。この身体活動は身体的フレイルを改善するだけでなく、精神的健康にも影響を与えることがいくつかの研究で指摘されています。つまり身体活動、運動機能、認知機能、精神的健康は、互いに関連していると考えられます。

しかし、ほとんどの研究は1対1の関係性にしか着目しておらず、全てが連関しているのか、またどのように連関しているのかは証明されていませんでした。

そこで本研究は、主観的な精神的健康、特にウェルビーイングと日常的な身体活動、運動機能、認知機能との全体的な関係や因果関係を明らかにすることを目的としました。

■研究の内容・成果

参加者は富山県内に住む65歳以上の健康な高齢者45名を対象に、全員に認知機能検査、歩行機能検査、ウェルビーイングの状態を測る生活の質(QOL)アンケート、幸福度アンケートを受検してもらいました。その他自宅で7日間、加速度計※3を装着してもらい、日常生活での活動量を計測しました。これらの検査結果の因果関係や関連構造を明らかにするために、構造方程式モデリングという統計手法を用いて分析をおこなったところ、日々の身体活動の多さが運動機能の高さを説明し、運動機能の高さが認知機能の高さを説明し、さらに認知機能の高さがウェルビーイング(QOL、幸福度)の高さを説明するとの一連の因果関係があるとことを示しました。

本研究は、高齢者において、日常的な身体活動を起点とし、運動機能、認知機能、QOL、そして最終的な幸福度へと続く一本の軸としての相互関係を初めて明らかにしました。幸福度は運動機能、認知機能、社会的要因の影響を受けるということです。本研究は、この軸のスタート地点である日常的な身体活動を活性化することで、それに続く運動機能、認知機能、そしてウェルビーイングが高まる可能性を示しました。身体的、精神的、社会的フレイルを予防・改善し、健康寿命を延ばすための重要な知見を得たと言えます。

■今後の展開

本研究は、日常の身体活動の向上によって、運動機能、認知機能が最終的に幸福につながるとの一連の関係性を初めて明らかにしました。

今後は、このような関係性をもたらす機序を分子的に明らかにしていく予定です。

【用語説明】

※1 ウェルビーイング

個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念

※2 フレイル

要介護状態に至る前段階として位置づけられる、虚弱状態。身体的脆弱性のみならず精神・心理的脆弱性や社会的脆弱性などの多面的な問題を抱えやすく、自立障害や死亡を含む健康障害を招きやすいハイリスク状態

※3 加速度計

動きの速さを感知するセンサを内蔵した活動量計

【論文詳細】

論文名:

Causal Relationships between Daily Physical Activity, Physical Function, and Cognitive Function Ultimately Leading to Happiness

著者:

稲田祐奈、東田千尋

掲載誌:

International Journal of Environmental Research and Public health

Published: 9 February 2023

DOI:https://doi.org/10.3390/ijerph20043016

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2023.02.27 研究成果