研究成果

ニクジュヨウエキスは頚椎症性脊髄症の痛みやしびれを改善させる

■ ポイント

ニクジュヨウエキス(カンカニクジュヨウの30%エタノール抽出エキス)を24週間服用すると、頚椎症性脊髄症性患者において、特に痛み・しびれの改善が認められました。

 

■ 概要

富山大学和漢医薬学総合研究所・神経機能学領域の東田千尋教授、稲田祐奈助教、富山大学整形外科講座の安田剛敏(前)准教授、関庄二講師、鈴木賀代(前)助教、牧野紘士助教、二川隼人病院特別助教、箭原康人准教授、川口善治教授らの研究グループは、頚椎症性脊髄症被験者を対象に、生薬のニクジュヨウエキス(カンカニクジュヨウの30%エタノール抽出エキス)の効果を偽薬(プラセボ)群と比較する24週間のランダム化二重盲検試験を実施しました。試験の結果、エキスの投与12週間目および24週間目において痛み・しびれの改善が認められました。

本研究成果は、「Next Research」オンラインに2025年11月13日(木)に掲載されました。

 

■研究の背景

富山大学和漢医薬学総合研究所 東田千尋教授の研究室では、かねてより生薬ニクジュヨウの神経疾患への効果を研究し、ニクジュヨウの中でも、特にアクテオシドの成分を多く含む種であるカンカニクジュヨウに注目してきました。以前の研究では、カンカニクジュヨウエキスやアクテオシド投与により脊髄損傷マウスの運動機能障害が回復することや、廃用性筋萎縮マウスの歩行機能障害がカンカニクジュヨウエキス投与により抑えられることを見出してきました。また臨床研究では、カンカニクジュヨウエキス投与によってロコモーティブシンドロームの歩行機能が改善することも示してきました。

本研究では、有効な治療薬開発が求められている頚椎症性脊髄症に対して、カンカニクジュヨウエキスの有効性を評価することを目的としました。

■研究の内容・成果

今回の研究グループは、頚椎症性脊髄症の被験者を対象に、カンカニクジュヨウの30%エタノール抽出エキスの効果を偽薬(プラセボ)群と比較する、ランダム化二重盲検試験を特定臨床研究として実施しました。

研究に登録された41名中、解析対象となった被験者は39名であり、平均年齢は66.2歳でした。被験者をランダムに2群に分け、カンカニクジュヨウエキス試験薬または偽薬を二重盲検で24週間投与しました。投与前、投与12週間後、投与24週間後において、頚椎症性脊髄症の機能障害の程度を点数化する複数の試験により、感覚機能、運動機能、QOLの評価を行い、群間比較解析しました。

痛みやしびれを点数化するVAS試験で、改善された人数と悪化した人数を比較したところ、カンカニクジュヨウエキス投与群では投与12週間目でも24週間目でも「改善した人数」が「悪化した人数」を有意に大きく上回りました。一方、偽薬投与群では「改善した人数」と「悪化した人数」が同程度で差がありませんでした。また、VASの変化点数で比較すると、カンカニクジュヨウエキス投与12週間後から有意に点数が良くなっている(痛み・しびれが治まっている)ことが示されました。JOAスコアの中の体幹の感覚機能の改善もエキス投与によって認められました。握力や上肢下肢の運動機能については、エキス投与と偽薬投与との間に有意な差は見られませんでした。

一般血液検査による安全性の評価では、カンカニクジュヨウエキス投与と偽薬投与との間で差が見られた項目はなく、いずれも正常範囲内でした。

以上の結果より、カンカニクジュヨウエキスは頚椎症性脊髄症に対し、感覚機能を改善させる作用を有することが示されました。

■今後の展開

今後は、カンカニクジュヨウエキスの作用機序の解明や、より規模の大きな臨床試験を実施するなどにより、カンカニクジュヨウエキスの有効性をさらに検討し、医薬品開発の実現に向けて研究を進めていきます。

【論文詳細】

論文名:

Cistanche tubulosa extract for degenerative cervical myelopathy:

A randomized, double-blind study

著者:

Chihiro Tohda1, Yuna Inada 1, Taketoshi Yasuda 2, Shoji Seki 2, Kayo Suzuki 2,

Hiroto Makino 2, Katsuhiko Kamei 2, Hayato Futakawa 2, Yasuhito Yahara 2,

Yoshiharu Kawaguchi 2

 所属:1) 富山大学・和漢医薬学総合研究所・神経機能学領域
2) 富山大学・医学部・整形外科学

責任著者:東田千尋

掲載誌:

2025年11月13日(木)オンライン公開

Next Research   Volume 3, January 2026, 101092

DOI:

https://doi.org/10.1016/j.nexres.2025.101092

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2025.12.02 研究成果