ステビアの「甘さ」の設計図を解読
―鍵を握る糖転移酵素遺伝子群―
■ ポイント
・ステビアの全ゲノム配列(設計図)を解読しました。
・甘味成分合成に関わる糖転移酵素遺伝子などが、葉の特定細胞で発現することを明らかにしました。
・糖転移酵素遺伝子群の違いが、甘味成分の組成・含量を左右し、「甘さ」の系統間の差につながることを示しました。
■ 概要
富山大学学術研究部薬学・和漢系(和漢医薬学総合研究所)の庄司翼教授とサントリービバレッジ&フード株式会社の平井正良の研究グループは、京都府立大学、理化学研究所らとの共同研究により、天然甘味成分「ステビオール配糖体」をつくる植物ステビアについて、全ゲノム配列(遺伝情報の設計図)を解読しました。
この設計図情報に基づき、葉の中でどの遺伝子がどの細胞で発現するのか、そして甘味成分が葉のどこに多く分布しているのか(図1)を明らかにしました。さらに、甘味成分合成に重要な糖転移酵素(糖を付け加える酵素)の遺伝子群の違いが、系統ごとの甘味成分の違いを生み出し、「甘さ」の差につながること(図2)が分かりました。
近年、糖の摂り過ぎによる健康リスクへの関心が高まる中で、ステビア由来の天然甘味料は食品分野で広く利用されています。本成果は、ステビアの甘味成分を狙い通りに制御するための基盤となります。
本研究成果は、植物科学分野の国際学術誌「New Phytologist」に2026 年5 月14 日(日本時間)に掲載されます。
■研究の背景
ステビアは、葉に高甘味の天然成分であるステビオール配糖体を蓄積する植物です(図1)。
ステビア由来の甘味料は食品分野で広く利用されていますが、ステビアは系統によって、甘味成分の種類や割合が異なり、それが「甘さの質(後味や苦味の出方)」の違いにもつながることが知られていました。
この違いを生む要因として、ステビオール配糖体を作る途中で糖を付け加える糖転移酵素が重要だと考えられてきました。しかし、どの遺伝子の違いが決め手となるのか、また葉の中のどの細胞で甘味成分づくりが進むのかなど、仕組みの全体像は十分に分かっていませんでした。
■研究の内容・成果
本研究ではまず、ステビアの全ゲノム配列(遺伝情報の設計図)を高い精度で読み解き、甘味成分づくりに関わる遺伝子を網羅的に整理しました。次に、甘味成分の組成が異なる複数のステビア系統を比べることで、遺伝子の違いと甘味成分の違いがどのように結び付くかを解析しました(図2)。さらに、ステビアの葉の中で、甘味成分づくりに関わる遺伝子がどの細胞で働いているのか(単一核RNA シーケンス解析)、そして甘味成分が葉のどこに多く存在するのか(イメージング質量分析)も合わせて調べました(図1)。
その結果、甘味成分の違いに強く関わるのは、糖を付け加える酵素である糖転移酵素のうち、UGT76G と呼ばれる遺伝子群であることが分かりました。UGT76G 遺伝子群では、遺伝子の構造や機能の違いが、系統ごとの甘味成分の種類や割合の違いを生み出し、結果として「甘さ」の違いにつながることが示されました(図2)。
また、甘味成分の中でも特に注目されるレバウディオシドD(Reb D)やレバウディオシドM(Reb M)の生合成には、UGT76G に加えて UGT91D4 という遺伝子が関わりますが、UGT91D4 は葉の中の限られた種類の細胞で主に働くことが分かりました(図1)。つまり、甘味成分づくりは葉のどこでも同じように進むのではなく、「作り手となる細胞が限られる」という性質が、高価値成分の量や比率を左右し得ることが示されました。
これらの結果から、ステビアの「甘さ」は、(1)糖転移酵素の遺伝子群の違い(図2)と、(2)それらが葉の中のどの細胞で働くか(図1)、という2 つの要素が組み合わさって生み出されることが明確になりました。


■今後の展開
本成果により、ステビアの系統による「甘さ」の違いを、糖転移酵素遺伝子群(特に UGT76G)の違いと、葉の中での働き方(どの細胞で働くか)から説明できるようになりました。今後、甘味成分の種類や割合が望ましい系統をより効率よく作出することや、甘味成分合成に関わる遺伝子の機能を理解した上で、より優良な甘味成分を安定的に得るための研究開発につながることが期待されます。
【用語解説】
※1)ステビア(学名Stevia rebaudiana)
南米原産のキク科植物。葉に高甘味の天然成分「ステビオール配糖体」を蓄積する。
※2)ステビオール配糖体(steviol glycosides:SGs)
ステビオール骨格に糖が結合した化合物群。組成の違いが甘味の質(後味・苦味など)に影響する。
※3)糖転移酵素(UGT)
糖(グルコースなど)を他の分子に付加して多様な配糖体を作る酵素。UGT76G はステビオール配糖体の構造多様化に関わる。
※4)単一核RNA シーケンス(snRNA-seq)
組織を構成する細胞(核)ごとに遺伝子発現を測定し、細胞種別の働きを解析する手法。
※5)イメージング質量分析(IMS)
組織切片上で成分の分布を可視化し、どこに蓄積しているかを調べる手法。
【助成情報】
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業 基盤研究(B)(24K02189)、科学技術振興機構(JST)GteX プログラム(JPMJGX23B0)、ASPIRE プログラム(JPMJAP2306)、ならびにPRESTO(さきがけ)(JPMJPR2046)の一部支援を受けて実施されました。
【論文詳細】
論文名:Multi-Omics Dissection of Steviol Glycoside Synthesis Reveals Haplotype-Linked Specialization of UGT76G Genes in Stevia rebaudiana
著者:庄司翼 1(責任著者)、福島敦史2、森中初音3、高木宏樹 4、中嶋優1、森哲哉3、河村彩子 3、石東博3、鳥井考太郎3、岩瀬哲 3、武田紀子3、豊岡公徳3、森田洋行1、平井優美3、杉本慶子3、齊藤和季3、平井正良5(責任著者)
所属:1.富山大学・和漢医薬学総合研究所 2.京都府立大学大学院・生命環境科学研究科 3.理化学研究所・環境資源科学研究センター 4.石川県立大学5.サントリービバレッジ&フード株式会社
掲載誌:
植物科学分野の国際学術誌
「New Phytologist」
DOI:https://nph.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/nph.71191
2026.05.14 研究成果









